
「葬儀会社の看板をデザインしていただけませんか。」
その一通のメールは、私にとって忘れられないタイミングで届きました。
大切な人との別れを経験した直後だったからこそ、「人を見送る場所」のデザインを任せていただくことには、不思議なご縁を感じました。
今回は、神戸市内の葬儀会社様の看板制作について、制作の裏側と想いをご紹介します。
お葬式の帰りに葬儀屋さんからのメール
2025年の春。
一週間のうちに、私は二人の身内を見送りました。
福岡の伯母と、尾道の祖父です。
神戸から福岡、そして尾道へ。
気持ちの整理がつかないまま車を走らせ、何度も空を見上げながら故人のことを思い返していました。
その帰り道、一通のメールが届きます。
差出人は、葬儀屋さん。
「あれ? 斎場に何か忘れ物をしたかな? 」
そう思ったものの、よく考えれば私の連絡先を知っているはずがありません。
戸惑いながらメールを開くと、そこには思いもよらない言葉が書かれていました。
「新しくする看板のデザインをお願いできませんか。」
神戸にある葬儀会社様からのご依頼でした。
お葬式の帰り道に、葬儀会社様から看板デザインのご依頼。
偶然とは思えないタイミングに驚き、少し頭が混乱したことを今でも覚えています。
ご依頼内容
今回ご依頼いただいたのは、神戸市を中心に地域に寄り添ったお葬式を大切にされている 株式会社 神東社 様です。
ご依頼内容
・従来の葬儀会社のイメージを変えたい
・地域の方が見て明るい気持ちになれる看板にしたい
・「ウォーリーをさがせ!」のように社長を探せる遊び心を入れたい
・地元・神戸に貢献したい
最初は少しためらいました。
わたしが普段描いている作品は、カラフルでポップな世界観が中心です。
「葬儀会社」というイメージとは真逆なのではないか。
そう思ったからです。
ですが、ご依頼メールを何度も読み返し、「明るい看板にしたい」というご要望に、これは、わたしだからできることだと感じました。さらにホームページを拝見して、その考えは大きくなりました。
ホームページで最初に目に飛び込んできたのは、
「十人十色、感動創儀。」
という言葉。そして読み進めると、
「何よりも大切なのは、かけがえのない方が遺された意志、そしてお見送りするご家族の想い。」
一つひとつのお見送りに寄り添われていることが伝わってきました。
その想いが、わたし自身が大切にしている「ユイイツムニ」の考え方と重なりました。
そして、このご依頼をいただいたのは、伯母と祖父を見送った直後。
二人とのお別れの時間を振り返ると、葬儀会社の皆さまがわたしたち遺族に寄り添い、安心して故人を送り出せるよう支えてくださったことが、とても心に残っています。
昭和、平成、令和という激動の時代を力強く生き抜いた祖父。
そして、人生の最後まで人を想い、愛を持って尽くした伯母。
二人を見送る時間は、悲しいだけではなく、「生きること」を考える時間でもありました。
「どんな最期を迎えたいか。」
その答えは、「今をどう生きるか」にあるのかもしれない。
そんなことを考えていた矢先、このご依頼をいただいたのです。
偶然だったのかもしれません。
でもわたしには、伯母と祖父が運んできてくれたご縁のように感じられたのです。
だからこそ、神東社様が大切にされている想いを、わたしの絵で表現したい。
そして、この看板が神戸の街に、ほんの少しでもあたたかな空気を届けられたら。
そう思い、お引き受けすることを決めました。
制作で一番苦労したこと
今回の制作には、大きな課題がありました。
- 神戸の街並みを俯瞰で描くこと
- たくさんの人物を自然に配置すること
- 「明るさ」と「寄り添う気持ち」を一枚の絵で表現すること
特に難しかったのは、人を描くことでした。
「人がたくさんいる」だけではなく、一人ひとりが何をしていて、どんな表情をしているのか。
そこまで描いてこそ、街に温かさが生まれると思ったのです。
イメージをカタチにするために
制作のために、わたしはたくさん現地へ足を運びました。
ちょうど大阪・関西万博が開催されていた時期だったこともあり、何度も万博会場へ行き、大屋根リングの上から人の流れを観察しました。

歩く人。
立ち止まる人。
話している人。
笑っている人。
高い場所から見える人々の動きを何度も眺めながら、街の中で人がどのように存在しているのかを研究しました。
さらに、神戸市内のホテルの高層階へ足を運び、街並みを何度も見下ろしました。

海も山も見えます。
神戸らしい景色を、自分の中にしっかり落とし込むためです。
そして、当初は「社長を探せ!」というアイデアでしたが、せっかくなら社長さまだけでなく、スタッフの皆さまにも登場していただき、より楽しみながら見てもらえる看板にしたいと考えました。
完成した看板を見た日



納品したあと、なかなか実際の看板を見に行くことができませんでした。
自信がなかったわけではありません。
それでも、
「本当に、この会社の想いをカタチにできただろうか。」
「この場所にふさわしい看板になっているだろうか。」
作品に心を込めれば込めるほど、そんな気持ちが何度も頭をよぎったのです。
納品から数か月後。
たまたま車で会館の前を通ったとき、見覚えのある看板が目に入りました。
「あ……。わたしが描いた看板だ。」
その瞬間、ようやく実感が湧きました。
車を止めて、しばらく看板を眺め、通りを行きかう人と看板のイラストを重ね合わせてみました。
笑う人、歩く人、誰かと話す人、立ち止まる人。
一人ひとりに、それぞれの人生があり、それぞれの想いがあります。
嬉しい日もあれば、悲しい日もある。
誰かと出会う日もあれば、大切な人との別れの日もある。
この看板が、それぞれの人生の交差する神戸の街のシンボルになれたらいいなと思いました。
そして、この場所を訪れる方や、前を通る地域の方の心が、ほんの少しでも和らぎ、「今日も一日、大切に生きよう。」と思えるきっかけになったら嬉しいです。
わたしだからこそ描けるユイイツムニ
作品を描くたびに、自分に問いかけています。
「わたしにしかできないことは何だろう。」
技術だけなら、もっと上手な方はたくさんいます。
でも、人の想いにココロを向け、その場所や、そこで過ごす人の物語に寄り添いながら描くこと。
そして、まだ言葉になっていない想いを、絵というカタチですくいあげること。
それが、わたしが大切にしている 「ユイイツムニ」 という想いです。
一枚の絵が、誰かの心を少しだけ和らげたり、前を向くきっかけになったり。
そんな作品を、これからも描き続けていきたいと思っています。
追伸
この看板に描いた「人生が交差する神戸の街」が、いつか神戸市バスのラッピングになって街を走ったら……。そんな小さな夢を、密かに描いています。考えただけでワクワクします。妄想はタダですからね。
神戸 トラベルイラストレーター えやひろみ
