
「すみません、横断歩道を渡りたいので手を貸してもらえますか?」
今朝、いつものように横断歩道で信号待ちをしていたとき、杖を持った80代くらいの女性がそっと声をかけてきました。
足が痛くてひとりで渡るのは不安なのだと、お話しくださったその表情を見た瞬間、わたしは考えるより早く「もちろんです」と返していました。
頼っていただけたことが、なんだか嬉しくて。
女性は「ここの横断歩道って、すぐに赤になるのよね」と言い、わたしも思わず大きくうなずいてしまいました。
子どもが小さかった頃、この信号を急いで渡っていた記憶がよみがえりました。
腕を組んで一緒に歩き出すと、案の定、青信号はすぐに点滅。
渡りきる2メートルほど手前で赤になってしまいました。
片側二車線ずつの広い幹線道路。
車は5台ほど止まって待ってくれていたのですが、わたしは思わず「すみません、いま渡ってます」と口にしてしまいました。
その瞬間、ハッとしました。
“すみません”と伝えると、まるで悪いことをしているみたいだな、と。誰も悪くないのに。
もしかしたら横の女性にも申し訳なさを感じさせてしまったかもしれない。
本当は「ありがとうございます」と言えたらよかったのに……。
すぐに何でも謝ってしまう日ごろの癖って、こういうときに自然と出てしまうのですね。
渡りきったあと、その女性は何度も何度も「ありがとうございます。本当に助かりました」と言ってくださいました。
その言葉が胸に温かくしみて、わたしも「こちらこそ、ありがとうございます」とお返ししました。
お礼と謝罪をまだ上手に使い分けられない自分に恥ずかしさを覚えつつも、人に頼られ、一緒に歩幅を合わせて渡った横断歩道は、少し冷たい朝の空気の中で、小さな幸せと気づきを運んでくれました。
人に頼ることがニガテなわたし。でも、素直にお願いすれば、誰かの「嬉しい」を生むのだと知った朝でした。
神戸 トラベルイラストレーター えやひろみ
