
8年程前の話。家族でアウトレットモールに行った時のことです。
当時抗がん剤治療中だったわたしは、心が少し落ち込み気味で、明るい気分になれる服が欲しいと思い、モール内をぶらぶらしていました。
ふと頭に浮かんだ「プラダを着た悪魔」。 その流れでふらっとプラダに立ち寄りました。
「見るだけ、試着だけ。」
そんなつもりだったのに。
プラダのダウンコートに袖を通した瞬間、ふわっと体に馴染んで、こわばっていたわたしの顔が少し和らいだ表情に。
鏡に映る自分がなんだか違って見えました。
「シクシクしてる場合じゃない。」
夫の後押しもあり、思い切って購入。
生まれて初めて買った高価なお洋服です。
無駄遣いしちゃったかな。
いやいや、「全力で生きる」ための決断。
乳がんを経験し、人生の有限を知りました。
それまでは、「もったいないから」「私には贅沢すぎるから」「いつか買える時が来たら」 そんな言葉を繰り返して過ごしていたように思います。
でも、今は違う。
日々頑張る自分を、大切な自分の体と心を、 ちゃんとねぎらってあげたい。
誰かのためだけじゃなくて、「わたし」のために。
服はただの布じゃない。 袖を通すたびに、「わたしはわたしを大切にする」と思い出させてくれる魔法のアイテム。
「全力で生きたら、なんでもできる。」
そう思わせてくれたプラダに感謝。 そして、これを着て、さらに楽しく、さらに自由に。
今日も、自分らしく生きていこう。
わたしの背中をそっと押してくれる、暖かいダウンコート。
神戸 トラベルイラストレーター えやひろみ