
クリスマスが近づくと、いくつになっても思い出す「心の味」があります。それは、特別な料理そのものだけでなく、一緒に囲んだ食卓、笑い声、台所に立つ人のぬくもり。
今回ご紹介する作品「ミセスグレービー」は、そんな“思い出の味”から生まれました。インスタの呼びかけで寄せられたMさんの素敵なエピソードを絵に込めました。
出会い ― 一通のメッセージから
インスタで「あなたの思い出の味を聞かせてください」と呼びかけたところ、心が温かくなるような物語を届けてくださったのは、Mさんでした。
やさしい言葉の行間には、家族を想う気持ちと、長く語り継がれてきた味への敬意が感じられました。
そこにいるはずのないわたしまで、まるで一緒に食卓を囲んだかのような温もりと、オーブンからチキンの香りが漂ってくるような懐かしさを感じる気持ちになりました。
幼い頃の記憶―誰も再現できない、幻の味
Mさんが子どもだった頃、市場で買ってきた鶏丸ごと一羽を、おばあさまが丁寧に内臓を取り除き、じっくり焼き上げてくれたローストチキン。
クリスマスやお正月には、親戚みんなが集まり、そのチキンを囲んで取り分けて食べた賑やかな記憶。
食卓いっぱいに広がる笑い声。
そして忘れられないのが、おばあさま特製の“グレービーソース”。
それは、いまでは誰も再現できない、幻の味になりました。
100年を生きた女性 ― ハイカラでファンキーなおばあさま
Mさんのお話によると、おばあさまのレシピは、アメリカ生活を経験したご親戚から教わったもの。
チキンだけでなくアップルパイも焼いてくれたというエピソードから、わたしはおばあさまのことを、ハイカラで、少しファンキーで、そして家族のためにいつもパワフルに動いてくれる女性だったのだろうなとイメージしました。
100年という濃い人生を生き抜き、溢れるほどの愛情を料理に込めてきたおばあさま。
その姿は、まさに尊敬そのものです。
思い出の味が残る理由
誰ももう再現できないのに、味の記憶は鮮明に残っている。
それは、食材やレシピの秘密だけではなく、“あの手”で、たっぷりの愛を込めて作られた料理だったから。
わたし自身も、亡くなった祖母の味噌の味を体と脳が覚えています。
記憶の中にだけ存在する、色褪せることのない味。
思い出の味とは、きっと作った人の愛情そのものであり、受け取った人の喜びなのだと思います。
作品「ミセスグレービー」に込めたもの

Mさんのお話から、ひとつの人物像が、すっとわたしの中に立ち上がりました。
外国に興味を持ち、好奇心旺盛で、大きなチキンを手際よく扱える力もある、ユーモアあふれる女性。
そして、大切な家族みんなが、賑やかな食卓を囲んで幸せそうにしている光景。
その温かな情景をひとつの絵に込めたのが「ミセスグレービー」です。
この作品は、2024年の北海道とニューヨークでの個展で展示させていただきました。とても好評でした。
「ミセスグレービー」を通じて、Mさんのおばあさまへの想いをそっと照らし、エピソードを読んで見てくださる方にも「自分の思い出の味」を大切にしてもらえるような存在になればと願っています。
心温まるお話をシェアしてくださったMさん、本当にありがとうございました。
そして、読んでくださったみなさんにも、どうかやさしいクリスマスが訪れますように。
神戸 トラベルイラストレーター えやひろみ
